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新刊書『多文化社会ケベックの挑戦』の紹介 [資料紹介]

新刊書『多文化社会ケベックの挑戦』の紹介(08/19)

竹中 豊(カリタス女子短期大学)

『多文化社会ケベックの挑戦 ―文化的差異に関する調和の実践 ブシャール=テイラー報告―』(ジェラール・ブシャール、チャールズ・テイラー編/ 竹中豊、飯笹佐代子、矢頭典枝訳/159頁/ 明石書店、2011年8月20日発行、定価(本体2,200円+税)

 本書は、おそらく現代ケベック社会を理解するうえで最も重要なテキストであろう。原題はFONDER L’AVENIR: le temps de la conciliation (2008年5月刊)。これは、ケベック州政府の委託をうけた委員会が編纂したもので、委員長はケベックの知性を代表するフランス 語系のG.ブシャール氏と英語系のC.テイラー氏の両名。そのためしばしば『ブシャール=テイラー報告』と称される。原典は両段組で310頁におよぶ”大著”だが、ここに訳出されたのはその要約版である。とはいえ、内容理解に支障はない。

 本書の特徴のひとつは、アイデンティティの再構築にむけて、今、ケベックが必至に模索している姿を映し出している点にあるだろう。マジョリティであるフランス系ケベックの歴史・文化・価値・言語などを基盤としつつ、しかし現代の文化的・民族的多様性を肯定的に評価し、同時にケベック社会に到来しつつある文化価値的異質性とどのように折り合い・調整をつけるか。それらを幅広く検証し、調和をはかる試みが、実践的に語られる。本書が《accommodements raisonnables》とも言われるゆえんである。

 今一つは、開かれた自由なケベック社会の姿を、多文化的自由主義の視点から描いている点にあろう。ケベックは独自のフランス語文化圏を維持しつつも、しかし世界から孤立すべきでなく、同時に異なる価値を受け入れる多文化共生社会こそが、ケベックの生き方だと分析される。すなわち、良質の民主主義、積極的な移民政策、連邦政府の多文化主義政策と異なるインターカルチュラリズム、開かれたライシテ等々、社会学的にも興味をひくテーマがいくつも論じられる。 

 邦訳版では、ブシャール=テイラー両氏による日本語版へのメッセ-ジに加え、一般読者むけに竹中による”解説”、そして巻末には原典にはないケベックに関するデータも記載されている。なお、本書は学術研究書ではなく、基本的にはケベック社会の現状を分析した政策提言である点を記しておく。訳者はいずれもAJEQ会員である。

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